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セキュリティナレッジ

2026.08.18

Black Hat USA 2026 参加レポート

はじめに

こんにちは。関本卓実です。中途入社2年目で、普段は Web アプリケーションの脆弱性診断をやっています。

2026年8月1日から6日まで、ラスベガスで開かれた「Black Hat USA 2026」に行ったので、参加レポートをお送りしたいと思います。今年は弊社から7名、私の所属する部からは私を含めて3名が現地に入りました。

私はBlack Hat初参加で、そもそもアメリカに行くこと自体が初めてでした。
そんな自分の目に今年のBlack Hatがどう映ったか、というのが本記事の視点になります。

そして、入社して1年程度の私でも海外カンファレンスへの参加を快諾していただいた会社には感謝しかありません。
少しでも弊社に興味のある方、まずはカジュアル面談からでもいかがでしょうか!
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Black Hatについて

Black Hat は1997年に始まった、世界最大級のセキュリティカンファレンスです。ラスベガスで開かれる USA のほか、ヨーロッパ、アジア、中東・アフリカでも開催されています。

イベントは、主に次の5つで構成されています。

  • Trainings — 有償の講習。1日ないし数日をかけて、トレーナーのもとで手を動かします
  • Summits — 特定のテーマに絞った半日~1日程度の集中セッション。招待制のCISO Summitなどが代表例で、その分野の関係者が集まって議論します
  • Briefings — 研究発表。いわゆるメインカンファレンスにあたる部分です
  • Arsenal — 研究者や開発者が主にオープンソースの自作ツールを来場者と対話しながらその場で実演するコーナー
  • Business Hall — ベンダー各社の展示ホール

今年は8月1日から6日までの6日間。会場は例年どおり Mandalay Bay Convention Center でした。
1日から4日が Trainings、4日が Summit Day、5日と6日が Briefings や Arsenal、Business Hall という並びです。

私は主に Trainings と Briefings に参加し、合間の時間に Business Hall を覗きに行くという回り方をしました。
本記事では Trainings の中身を中心に書き、Briefings や Business Hall は全体の雰囲気に絞ってお伝えします。

今年の空気感は、AI 一色でした

会場に着いてすぐ、Black Hat のロゴが出迎えてくれました。

black_hat_usa_2026_01_logo.jpg

ロゴの奥にあるスクリーンには「AI by default.」の文字が。
どこかの製品広告だと思います。肝心の社名をメモしそこねたので、今となっては確かめようがないのですが。ただ、6日間を終えて振り返ると、今年の Black Hat を一番短く言い当てていたのは、たぶんこの一文でした。

それが一番はっきり出ていたのは、Briefings の客入りです。AI 関連のセッションは、かなり広い会場が用意されているのにどれもほぼ満席でした。

Briefings の空き時間に Business Hall を歩くと、今度は出展する側の熱量が見えます。AI 関連ツールの紹介とデモがとにかく目に入りました。
セキュリティのカンファレンスに来たはずなのですが、AI のカンファレンスに来たような気分になる瞬間が、何度かありました。

参加者の関心の中心がAIにあったことは間違いないと思います。

black_hat_usa_2026_01_buisnesshall.jpg

受講したトレーニング

日付 コースタイトル 時間
8/1(土)~8/2(日) Proactive Security Engineering: Building Secure-by-Design Architectures That Scale 8/1 10:00–19:00
8/2 9:00–18:00
8/4(火) AI-Powered Threat Modeling: Modernizing Security Analysis with LLM Augmentation 9:00–18:00

今回、2本のトレーニングを受講させていただきました。感謝!!

1本目はProactive Security Engineering: Building Secure-by-Design Architectures That Scale
8月1日と2日の2日間コースです。
OWASP Top 10 でおなじみの項目を、設計する側の視点で順に扱っていく内容でした。こちらは AI がテーマのコースではありません。

2本目はAI-Powered Threat Modeling: Modernizing Security Analysis with LLM Augmentation
8月4日の1日完結コースです。
STRIDE や PASTA といった従来の脅威モデリング手法はそのままに、そこへ LLM を組み合わせて速度と一貫性を上げる、という内容でした。

ここからは各トレーニングごとに公開して差し支えない範囲で内容をご紹介します。

トレーニング1つ目(8/1–8/2)

~コースタイトル~
Proactive Security Engineering: Building Secure-by-Design Architectures That Scale

2日間にわたるトレーニングです。参加者は10名程度で、ペネトレーションテスターや Web の開発者といった顔ぶれでした。

概要

タイトルにある Secure-by-Design とは、要するに「後から直せる仕組み」ではなく「そもそも壊れにくい作り」をどう設計するか、ということです。想定されているのは、アプリケーションを設計したり実装したりする側の人です。セキュリティレビューで指摘が出てから直す、という流れそのものを、設計の段階まで前倒しするための講義でした。

カリキュラムの背骨になっていたのは OWASP Top 10 です。アクセス制御、入力値の検証、設定と暗号化、認証情報の扱いなど、おなじみの項目が2日間で9つのモジュールに分かれて出てきます。
並んでいるテーマ自体に目新しさはありません。ただ、扱い方が診断の現場とはちょうど逆でした。普段は出来上がったものを評価する側から見ている項目を、2日間ずっと作る側から見ることになります。同じ OWASP Top 10 を題材にしていても、立つ位置が変わるとこうも見え方が違うのか、というのが率直な感想です。

各モジュールは「攻撃する → テストする → 防御する → パターン化する → 再テストする」という同じサイクルで進みます。毎回、再利用できる設計パターンに落とすところまでやりました。

ハンズオンが充実していた

座学だけで終わるモジュールはひとつもありませんでした。わざと脆弱に作られた Web アプリケーションを自分のノート PC で動かし、脆弱な状態と対策済みの状態を行き来しながら進める形式です。モジュールあたり4〜9問のチャレンジが用意されていました。

なかでも腹落ちしたのは、自分の手で直したコードが再テストを通る瞬間でした。スライドで「こう直すべき」と説明を聞くのと、自分で直して通るのを目で見るのとでは、残り方がまるで違います。

トレーニング2つ目(8/4)

~コースタイトル~
AI-Powered Threat Modeling: Modernizing Security Analysis with LLM Augmentation

こちらは1日完結のコースです。参加者は20名程度で、Web の開発者やエンジニアリングマネージャーなどが受講していました。

概要

コースを通してはっきりしていたのは、LLM は専門家の判断を置き換えるものではない、という立場です。判断は人間が持ったまま、作業のところだけを速くする。この線引きは最後まで一貫していました。

STRIDE や PASTA の手順そのものは変えず、その中で LLM に任せる領域として扱われたのは、だいたいこのあたりです。

  • システムの分解(decomposition)
  • アーキテクチャ記述や DFD(データフロー図)からの脅威シナリオ生成
  • CVE やテレメトリを使ったリスクベースの優先順位付け
  • ドキュメントの標準化(毎回ばらつく成果物を、再現性のある形に揃える)

ツールは ChatGPT のような汎用 LLM のほかに、STRIDE GPT のような脅威モデリング特化のものも取り上げられました。

もうひとつ扱われたのが、入力データの準備です。アーキテクチャ情報、ログ、脅威インテリジェンスをどう取り込み、前処理し、注釈をつけるか。ここが雑だと、出力の精度も落ちますし、どこからその脅威が出てきたのかも辿れなくなる、という説明でした。プロンプトの工夫に比べると地味ですが、何を渡すかのほうが出力を左右するというのは納得がいきました。

精度について

生成された脅威モデルを、どこまで信用していいのか。ここについては、precision(適合率)・recall(再現率)・F1 スコアを使って AI 支援の脅威モデリングを評価する、という扱い方が示されました。

AI が出したものを、数字で受け止めるという考え方です。網羅性は recall で、余計なものを拾っていないかは precision で見ます。言われてみればそうなのですが、脅威モデルの品質を数値で語るという発想が自分になかったので、ここは持ち帰りたい話でした。

これから行く方への実用情報

実際に参加してみてわかったことがあったので、いくつか感想を共有させてください。

ごはんが出ます

Trainings と Briefings に参加する日は朝食と昼食が用意されます。

これが想像以上にありがたかった。朝、どこで何を食べるか考えなくていい。昼も、休憩時間に会場を出て、店を探して、並んで、という一連が丸ごと不要になります。

慣れない土地で、しかも英語の講義を朝から晩まで聞く日に、これはかなり効きます(食費が浮くのも大きいです)。休憩が終わればそのまま席に戻れるので、トレーニングに集中できる環境でした。

black_hat_usa_2026_01_morning.png

そして、会場は寒い

もうひとつ実用的な話を。会場の中がとにかく寒いです。

会場が寒いことは聞いていて、薄手のジャケットを用意していったのですが、全然寒かったです。トレーニング初日は参加者やトレーナーから寒いという声が度々上がり、終了時にはみんなで太陽の下に出られることを喜びました。外は40℃超えの気温でしたが、芯まで冷えていたのでぽかぽかして気持ちよかったです。

そのうえで目安を挙げるなら、日本の11月ぐらいを想像しておくと安全だと思います。厚手のパーカーを1枚カバンに入れておくくらいでちょうどいいです。真夏のラスベガスに行くのに上着を詰めるのは気が進みませんが、確実に使います。会場までの移動もあるので、脱ぎ着しやすいものを選んでおくとなお良いです。

英語はどうだったか

参加が決まってから出発までの数週間、楽しみと不安がだいたい半々でした。最先端の講義を直接受けられて、研究発表をその場で聞ける。そちらはやっぱり楽しみです。一方の不安は、要するに英語でした。朝から晩までの講義が3日間受けるのに、聞き取れなかったらその場でどうするんだ、という考えが最後まで消えませんでした。

結論から言うと、問題ありませんでした。

トレーニングについては、資料が手厚かったのが大きかったです。事前に配られた資料で予習して、予備知識を入れた状態で臨んだので、講義の流れは十分に追えました。

そして、つたない英語でも質問すればちゃんと答えてくれます。トレーナーの方々には本当に感謝しています。

印象に残っているのは、講義の本筋から少しずれた質問が出たときの対応でした。「お金をもらっているから答えないといけないからね」とジョークを挟みつつ、それでも丁寧に回答してくれる。あの空気のおかげで、質問すること自体のハードルがずいぶん下がりました。

Briefings のほうは、さらに心配無用です。公式アプリにリアルタイムの文字起こしと翻訳の機能が用意されていました。話している内容がその場で文字になり、訳されていきます。精度も良く、聞き取れなかったところはここで補えました。

英語を理由に参加を迷っている方がいるとしたら、そこは思っているほど障壁になりません。

さいごに

参加する前はあれこれ身構えていましたが、終わってみるとあっという間の6日間でした。

行ってみて一番良かったことを挙げるなら、人でした。トレーナーも受講者も、みんな優しかった。つたない英語で話しかけても嫌な顔ひとつされませんでした。休憩時間やセッションの合間に、いろいろな国から来た方と話せたのは楽しかったし、いい経験になりました。

そして今年、一番強く印象に残ったのはやはり AI です。参加者の関心の中心は間違いなくAIでした。AI がまず使われるのが当たり前になる時代の転換点にいるんだな、と改めて感じました。

なお、本記事で触れなかった Briefings と Business Hall については、同じ部から参加した他の2名が、それぞれ別の切り口で後日レポートを公開する予定です。あわせて読んでいただけると、今年の Black Hat の全体像が見えてくるはずです。

今回の経験を糧に、セキュリティエンジニアとしてもう一段パワーアップしたいと思います。そしてもし次の機会をいただけたら、今度は DEF CON にも足を延ばしてみたいところです。

black_hat_usa_2026_01_mandalay.jpg

関本卓実